国の感染症対策の無策を嘆く

 

わが国の感染症対策、予防接種行政が先進国では最低であり、数十年遅れていると言われて久しい。
最近、成人の風しんが流行し、先天性風しん症候群の子ども達が出生しているという現実に
小児科医として忸怩たる思いである。昨年から今年にかけて風しんが流行し、一部自治体
(京都府もであるが)で、接種費用を助成しようという動きが加速しているが、
それはそれで評価をすべきと考えるが、対象が妊娠可能女性であり、妊娠中の女性の配偶者を対象とし、
おまけに、今年度内が大半であるという施策は、いかにも市民向けをねらったものであるとしか言い様がない。
行政は、先天性風しん症候群の発生を防ぐ緊急対策であると説明するが、ではなぜ今なのか、
来年はどうするのか?お金がないが、何もしないと市民受けしないので緊急対策でもということであろうか。
国は、国民に「風しんワクチンの接種をご検討ください」の一言ですませており、
かつての麻しん流行や今の風しん流行についてその責任には我関せずであり、
厚顔無恥としか言いようがない。


何故、流行するのか
そもそも、なぜ、わが国では風しんや麻しんが流行するのか。風しんは約9年前の2004年前後に流行し、
先天性風しん症候群が発生するという悲しい体験をしているにもかかわらず、国は何ら対策を打ってこなかった。
20数年前から小児科学会、医会を始め多くの関係者は麻しん・風しん2回接種を求めてきたが、
厚労省は頑なに
1回接種を続けてきた。結果、2006年から2007年にかけて麻しんが流行し、
米国など先進国から麻しん輸出国とレッテルを貼られ、外圧に弱いわが国が、漸く
2008年から5年間キャッチアップとして
中学
1年生と高校3年生に定期接種を実施したことは記憶に新しい。世界から取り残された我が国のワクチン行政に、
厚労省は何ら反省することも無く、会員各位の
2度にわたる署名活動の後押しをえて漸く、HPV,不活化ポリオ、
肺炎球菌、
Hibワクチンの定期接種化が実現しただけである。そこに、風しんの流行である。現在の風しん罹患者は、
3〜40代の男性が中心である。この世代は、中学
3年生の女子のみを対象に風しんワクチン接種の定期化が
進められてきた年代である。
9年前の風しん流行7年前の麻疹流行から、麻しんワクチン(MRワクチン)の
二回接種に踏み切ったのは良かったが、杜撰な対応から
5年間の暫定措置となったが、過去の不適切な対応から、
同様の事が起こる事は自明の理であったはずである。何故、
18歳未満のみを対象としたのかの説明は今も国民にはなされていない。
5年間の経過措置を実施したときに、現在19歳以上の人たちへの対応は考慮しなかったのか。 30歳以上の成人男性は
もともと風疹を接種していない人たちが大半であり、女性も風しんは
1回のみの接種で抗体価が低下している可能性は大きい。
同様に、麻しんも抗体が低下している人たちが多いはずで、適切な対応をしないと再び同様のことが起こることは明白である。
しかるに、厚労省の啓発では、風しんワクチンの接種をご検討くださいである。
風しんワクチンは現在生産に力を入れているようだが、現実には入手困難である。また、麻しん抗体の低下を考えると
風しんワクチンよりMRワクチン接種が推奨されるべきではないか。
一方で、急激に成人がMRワクチン接種をおこなえば、肝心の乳幼児の接種に支障が来ないか。
世界水準のワクチン行政を実施するとともに、過去の失政に対しても適切な対応を実施して
感染症の危機から国民を守るのが国の責務である。副反応による健康被害で裁判に負けるのが
怖いという考えには、厚労省の保身をはかるという意識はあっても、国民を感染症から守るという発想は全くない。
感染症から国民を守るために不幸にして副反応により障害を受けた方は、国が一生涯守っていくこと、
そのための方策を実施していくことが国の責務であることをこの機会に強く訴え、ワクチン行政を根底から変えていく必要がある。